蒔絵のしかけ〜輪島塗 酒器
Wajima-nuri Sake Ware
レポート / KYOTO’s 3D STUDIO Inc.
はじまり
「お酒を注ぐと輝くうつわ。ウソみたいな本当の話です。
例えば画像のような盃ですと、お酒を注いだときに光が蒔絵に集まり、光る面の少ない金粉にまで光を当ててくれます。
このときの蒔絵の輝きは、漆器を手にすればお分かりいただけます。
特に筆で描かれる「蒔絵(まきえ)」は、ただ筆に金をつけて絵を描くわけではありません。
筆に漆を含ませ、線を引いていき、漆が固まらないうちに金粉などを蒔きます。
漆が固まった後でその上に同じ線を引き、金粉を漆でサンドするようにします。
しかしこの時点ではまだ金は光りません。
なぜなら粉(丸い粒)のままだからです。
再び漆が硬化した後、木炭などを使って研ぎ出し、その金粉に面を作ってあげることで金が色を出してくるのです。
これらを繰り返してできる蒔絵は、お客さまのもとにお届けして終わりではありません。
例えば画像のような盃ですと、お酒を注いだときに光が蒔絵に集まり、光る面の少ない金粉にまで光を当ててくれます。
つまり、お客様にお使いいただいて初めて完了する酒器なのです。」
千舟堂株式会社 岡垣漆器店 店主 / 岡垣氏 談
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今回、漆で絵柄を描いた酒器(漆器)の表面に金・銀の金属粉、色粉を蒔きつけ付着させる日本独自の蒔絵技法と、なぜ器が輝くのかを3Dレーザーの技術を用いながら、職人技の凄さを科学的に紐解いていきます。
なぜだろう
輪島塗の酒器に描かれた「蒔絵」は、お酒やお水をそそぐと酒器の底面から、浮き出て光始めるのは、なぜだろう。
酒器に秘められた蒔絵のしかけ
しかけ1【光の屈折】
水に濡れると立体的に見える絵(蒔絵)は、水と空気の境界で起こる光の屈折という現象によるものといえます。
水が絵(蒔絵)の表面に注がれることで、光が水中で曲がり、見た目に奥行きや立体感があるように錯覚させることで、立体的に見せているのです。
光の屈折とは?
・光の進み方:光は、通常まっすぐ進みます。
・屈折の起きる仕組み:空気から水へ、または水から空気へと 異なる物質の境い目を通る際に、光は折れ曲がります。
・錯覚の発生:目は、光が直進していると認識してしまうため、水面の下にある物体が実際よりもずれた位置にあるように感じたり、曲がって見えたりするのです。
しかけ2【蒔絵は粉の集合体】
蒔絵とは漆の加飾表現のひとつです。
筆に漆を含ませて絵を描き、その漆が硬化しないうちに金粉などを蒔いていきます。この時点ではまだ絵全体のシルエットが表現されたにすぎません。
そこから色漆を塗りこんだり、さらに漆をかさねたり、または研いで色の濃淡等を出す工程を繰り返すことで、図が完成していきます。
液体が注がれると、屈折した光が内側の蒔絵に届きます。すると、蒔絵の内側に使用された金粉等にも光が届き、艶のある輝きを放つのです。
蒔絵はただ色を塗っているのではなく、金属粉や色粉の集合体にすることで、そのひとつひとつが個性を強調するかのごとく観るものを魅了します。
Measurement and Data Processing Methods
酒器に秘められた「蒔絵のしかけ」を引き出している輪島塗職人の技を3D技術で可視化する。
計測手法
輪島塗漆器の酒器底面に描かれた蒔絵に対し凹凸情報を取得するため、3Dレーザースキャンによる計測をおこなう。
・レーザー照射量および照射角度
・点群を取得する際の密度および間隔
・計測する向きを変えて重ね合わせる
以上の手法により、蒔絵立体の高さ又は深さ方向の情報を抽出している。
3DScanArm(レーザースキャナー)
分解能(測定器や表示装置などが、対象の物理量をどれだけ細かく識別・検出できるかを示す能力、または、観測対象をどれだけ詳細に識別できるかを示す能力)が20μmの多関節アーム型の非接触式3Dレーザースキャナー(FARO Design ScanArm)による3D計測で蒔絵の可視化を試みた。
情報処理手法について
点群が多いほど凹凸の解像度は高くなるが、物体表面の座標の算出および表面画像の生成等処理の負荷が大きくなり、また細かい起伏によるノイズが増加するため、処理の負荷を抑えつつ蒔絵凹凸の解像度を高めることを可能にする。
・点群の感覚を漆地、金属粉、色粉に応じて変動が必要な場合は適切におこなう。
・点群間隔を比較させる等。
3D点群データより蒔絵の凹凸情報が鮮明に
カラー情報を備えた3D点群データを点群座標のみで構成された一色の情報で分析をおこなうことにより、カラー情報で見えなかった職人の塗り技が表れる。
3D点群データをより詳しく分析
分析結果
計測した酒器の底は湾曲であるため、蒔絵に対しXYZ座標の計算ならびに調整を行い、蒔絵の凹凸と漆地との垂直方向を設定する。
その後、酒器(漆器)の表面と金属粉、色粉との計測を行った。
抽出した箇所の蒔絵(金粉)と漆器表面との差異は、0.1407mm
色粉との差異は0.0982mm≒98μm
の数値を計測確認できるに至った。
0.1mm≒98μmは、例えるならばコピー用紙約1枚分
「蒔絵のしかけ」を引き出している輪島塗職人の技は、
0.1mm、98μmの世界の仕事をしていることが分かった。
考察
「蒔絵のしかけ」を最大に引き出している輪島塗職人の技
水に濡れると立体的に見える絵(蒔絵)は、水と空気の境界で起こる光の屈折という現象を利用し、水が絵(蒔絵)の表面に注がれることで、光が水中で曲がり、見た目に奥行きがあるように錯覚させることで、立体的に見せている。
また、絵(蒔絵)の表面が濡れると層ができる。
この水の層を透過して目が絵(蒔絵)を見る際、光は空気と水の境界で再び折れ曲がる。
この屈折によって、蒔絵の漆で絵柄を描いた酒器(漆器)の表面に金・銀の金属粉、色粉を蒔いて付着させた色の見え方が微妙に変化し、奥行きが生まれて立体的に見える。
この効果を最大限に引き出しているのが、輪島塗の職人のμmの世界と技法である。
これらの技法で塗られた蒔絵の繊細な凹凸の差異や輪郭の判読および計測手法として、分解能が20μmの多関節アーム型非接触式3Dレーザースキャナーを用いた。
また、3Dデータ化処理による可視化の手法について、石川県輪島市の伝統産業で国の重要無形文化財にも指定されている「輪島塗」を検証した。
※輪島塗は、日本を代表する漆器の一つでもあり、
「素地が木地であること」「布着せしていること」「地の粉下地であること」
この3つの条件を満たし、輪島で制作される漆器が輪島塗と呼ばれている。
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結果、蒔絵の各凹凸の深度方向の範囲を限定したコンタ表示および畳量表示により、凹凸差異の判読可能範囲を格段に広げることができ、輪島塗の歴史的背景から継承された職人の技法の繊細さや文化的希少価値を再認識するとともに、理解する上で重要な手掛かりの一つとして評価できることを明らかにした。
[レポート]
KYOTO's 3D STUDIO 株式会社
https://k3s.jp/
KYOTO's 3D STUDIO 株式会社
KYOTO’s 3D STUDIO株式会社は、先進的なデジタル技術を活用して文化遺産の保存と活用を推進し、地域社会・観光産業・教育分野に大きく貢献しています。






