としょかん通信6月号から

としょかん通信6月号から

Jun 10, 2025

最近、ちょっと嬉しいことがありました。

公益法人全国学校図書館協議会が発行している「としょかん通信」というものがあります。

この度、としょかん通信6月号に、輪島塗と弊社のことを取り上げていただきました。

「としょかん通信プラス・あるふぁ」という先生方向けの冊子に、私のインタビューが掲載されています。インタビュアーの金田さんに素晴らしい内容にまとめていただきましたので、こちらでも紹介させていただきます。

 

(以下、公益法人全国学校図書館協議会発行「としょかん通信ぷらす・あるふぁ6月号」からの続きです。)

 

タイトル『あの日から1年半 ― 輪島塗、再生と挑戦の今』

揺らいだ未来、動き出す決意

私は、幼少期から職人たちに囲まれて育ちながらも、輪島を離れ、もう地元に戻るつもりはなかったんですが、2007年の能登半島地震がすべてを変えました。 久しぶりに見たあの陽気だった職人たちが、下を向いて「もう駄目だ」と呟いている姿を見て、「なんとかしなきゃ」って気持ちが湧き上がったんです。根拠なんてありません。ただ、あのときの私は、どうにかできるって信じていました。職人じゃない私にできることは何かを考えて、塗師屋(ぬしや)として動き始めました。

 

地の粉と、職人の手が生む100年の強さ

輪島塗の魅力は、その美しさだけじゃなく、100年使える強さにあります。 特に下地に使う「地の粉」という珪藻土は、輪島ならではの素材。 他の産地には無い多孔性で、漆がしっかり染み込み、丈夫な漆器になるんです。でも、素材だけじゃ強くはならない。塗って、研いで、また塗って・・・。天気や湿度と相談しながら、職人たちが自然と向き合い続けることで、本当に長持ちする器が生まれます。完成した瞬間にはわからない。しかし、何十年も経ったときに「丁寧に作られたものは違う」と実感できるのです。それが輪島塗の真髄だと思います。

 

「手を動かす」ことが、伝統を繋ぐ

私はこれまで職人たちと共に、伝統をどう未来へ繋げるかを考えてきました。 その覚悟が本当の意味で試されたのが、2024年の元旦です。 あの日、家族と一緒に輪島で被災しました。給水所で職人たちの手が震えているのを見たとき、強く感じたんです。寒さだけじゃない、「手を動かせない苦しさ」がそこにありました。 輪島塗の伝統って、器そのものじゃなくて、手を動かす技術そのものだと思っています。だからこそ、どんな状況でも職人に仕事を生み出すことが、私の役割だと確信しました。

地震のあと、私が大事にしてきたのは「誰に売るか」よりも、「誰に作ってもらうか」。ターゲットを決めず、まずは職人たちにグラスや皿に蒔絵を描いてもらい、自由な発想で手を動かしてもらうことを優先してきました。でも、職人たちはスーパーマンじゃありません。それぞれに得意なこともあれば、苦手なこともあるのが当たり前。だからこそ、私はいつも「この人の強みは何か」を考えてお願いするようになりました。例えば、細い線や螺鈿(らでん)の使い方が上手な蒔絵師には、その技が一番映えるデザインを提案する。「鶴を描いてください」なんて丸投げするんじゃなくて、「あなたの線の美しさが活きる鶴を描いてほしい」と、一緒に考えるんです。職人の技術をただ使うんじゃなくて、その人の得意を引き出して、魅力が最大限に伝わるものを一緒に作る。それが、僕が職人と向き合うときに一番大切にしていることです。

そうやって生まれた作品には、きっと作り手の想いも乗るし、手に取った人にも伝わると信じています。

 

震災を越えて、輪島塗を世界へ

震災直後は、正直、ニューヨークの見本市に行くなんて考えられませんでした。 準備も進まず、気持ちも追いつかない中で、妻や職人たちから「今こそ行くべきだ」と励まされ、ようやく決断できました。 仲間たちの協力がなければ、実現できなかった挑戦でした。

現地で特に驚かれたのが、水や酒を注ぐと絵が浮かび上がる漆器「高蒔絵」という技法です。 盃に、光が屈折して金や銀の粒子が輝き出します。まさに『動く蒔絵』です。それを見た方は目を丸くして「これはアートだ!」と声を上げる人が何人もいました。展示会には、ミュージアムショップのバイヤーやギャラリー関係者300人以上もの方が集まりました。あの反応は振り返ってもすごく嬉しかったです。

 

共感が広げる漆器の未来

ニューヨークでの反響を受けて、改めて「漆器の可能性」を実感しました。伝統を守るだけじゃなく、今の暮らしに合う漆器を作りたいと、カラーバリエーション豊富な器やグラスへの蒔絵、ハンガー、傘、名刺入れ、地球儀など、漆器の枠にとらわれず、職人たちの手を動かすことを第一に、さまざまなアイテムづくりに挑戦してきました。

そんな挑戦を支えてくれが、共感の力です。今年からは企業理念も「共感」に重きをおき、お客様はもちろん職人とも想いを共有しながら、ものづくりを進めています。職人たちに単に「作ってください」と依頼するのではなく、「あなたの手で生まれた作品は、こうして世の中に届いていきます」と、職人とも想いを共有しながら進めること。それが、私の考えるものづくりのモットーです。

 

子どもたちへ届けたい、誇りという未来

伝えたいことは、「輪島には誇れる技術がある」ということです。地震で大変な思いもしたけれど、足元には世界に通じる文化がちゃんとある。将来、子どもたちが都会や海外に出たときに、「輪島にはすごいものがあるんだよ」って胸を張って言えるようにしたいんです。

そのためにも、これからも職人たちと一緒に、輪島塗を未来へ動かし続けたいと思っています。

 



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